先日、夫だけが参加する親戚の集まりがあった。そこで、夫は義母から「マリさんの得意料理ってなに?」という質問をうけたらしい。夫は結婚して家を出るまでずっと実家で暮らしていた。掃除や皿洗いなどの家事はしっかりやってくれるが、料理は一切できない。義母としては我が子が不自由なく生活できているか、特に食事をきちんと摂れているか、と心配するのは当然のことで、「得意料理は?」という質問もそうした親心から何気なく出たのだろう。

ここまではいい。そこで普通に料理名を答えてくれれば何の問題もなく丸く収まるはずだった。だったのだが。理系&論理思考の夫は、曖昧な質問には答えられない。真面目に考えて「何が“得意”なのかは主観だから、本人に聞かなければわからない」と言ったらしい。そこでめげない義母は「ホラ、よく出てくる料理とか」と質問を変えた。少し考えて夫は次のように答えたそうだ。

「冷やしトマト」、と。

いやいやいやいや。たしかに冷やしトマトは登場頻度高いよ?でもそれって「副菜その2」くらいのポジションで出してるわけじゃん??こっちとしては料理が得意でも好きでもないなりに、毎日がんばってご飯作って食べさせてるじゃん???でもその流れで「冷やしトマト」って答えたら私の得意料理が冷やしトマトで冷やしトマトしか食べさせてないみたいになってるじゃん?????

後から話を聞いた私がそう詰め寄ったところ、夫にも言い分があるという。曰く、私が作る料理は名前がわからない、というのだ。たしかに、私はあまりレシピなどを見ないで、そのとき家にある食材から思いつきで作ってしまうことが多い。いわゆる「名もなき料理」というやつである。名前がわからないものは答えようがない。料理をしないから「食材+調理法」的な説明もできない。なるほど、一理ある。

では何か、夫でもわかる名前のついた料理の中から、これが得意だよというのをピックアップしようと思った…のだが、そこでハタと立ち止まってしまった。そもそも、「得意料理」の定義ってなんだ?

まず「料理」というからには、メニュー名を聞いただけで誰もが完成形をイメージできるものでなければならないだろう。それが「得意」ということは、それなりの頻度で作っていて、誰に食べさせても「おいしい」と言ってもらえるようなもの。そしてある程度そこに自分なりのオリジナル要素が加わっているもの、だろうか。

……そう考えると、「得意料理」ってめちゃくちゃ難しくないか?っていうか、私「得意料理」と言えるようなもの無いな、という結論に達してしまったのだった。だって「名もなき」ものばかり作っているから……。味も自分では美味しいと思うけど、自信を持って誰にでも出せるかというと……という感じではある。

ここで夫が「ほれ見い、ぼくの言った通りではないか」という顔をし始めたのでなんとも腹立たしいが、しかしこのまま引き下がっては得意料理が「冷やしトマト」のままで終わってしまう。そこで私は考えた。「得意料理がないなら作ればいい」と。逆転の発想(?)である。

そこで、下記の要件を整理して、当てはまりそうな料理を改めて考えてみた。
・そこそこ簡単に作れる(面倒だと頻繁に作る気にならないから)
・それでいて、ちょっと手間がかかってそうな感じがする
・好き嫌いが少ない、万人受けするメニュー
・食べ飽きないが、ややスペシャル感もある
・オリジナリティが出せる

検討を重ねた結果、私がたどり着いた結論は、「自分でスパイスを調合して作るインドカレー」であった。

市販のルーやカレー粉ではなくて「自分でスパイスを調合して」ってところがミソである。なんとなく手間がかかってそうだし、オリジナリティも出せるだろう。しかもこれ、ちょっと調べたことがある人ならわかると思うが、意外なほど簡単に作れるのだ。よし、これを自分の「得意料理」にしよう!

そうと決めたら後は練習あるのみ、とスパイスを買い込み、カレーを作り続けること1ヶ月。ある程度納得のいくものができるようになってきた。家庭料理だから当然、お店のカレーほど複雑な味わいにはならないが、そのシンプルさがかえってフレッシュな感じもし、週1ペースで作っても食べ飽きないところもいい。

そんなこんなで、私の得意料理は「スパイスから作るインドカレー」になりました。皆様におかれましては以後、ご承知おきのほど、よろしくお願い申し上げます。