「人は人生の3分の1は眠っている」というフレーズをよく耳にする。睡眠の質は寝具にも左右される。人生の3分の1もの時間を共に過ごすものだからこそ、マットレスや枕にこだわる人も少なくないし、よりよい睡眠を得るためにはどうすればいいか?という情報への関心も高い。

それに対して、人類の約半分には深く関わりがあって、かつ同じくらい人生の多くの時間を占めるものでありながら、あまり話題に上らないのが「生理」である。

個人差も大きいものの、ほとんどの女性(と、精神的には女性以外の性別だが、身体の性が女性であるという人)は生理やそれに由来する悩みと無関係ではいられない。平均すると、ひと月4週間のうちおおよそ1週間の期間を共に過ごしている。睡眠の例にならえば、(月経がある間の)人生の4分の1は生理という計算になる。この期間をいかにして快適に過ごせるかどうかは、生活の質に大きく影響するといえよう。

であるにも関わらず、生理の話はおおっぴらにしにくい、という雰囲気がある。気がする。最近でこそメディアでも少しずつ目にするようになってきたが、それでも睡眠やその他の健康に関するテーマに比べればまだまだだろう。

でも生活の質にダイレクトに影響するものなんだから、生理用品だって、文具とか化粧品とかキッチン用品とか健康器具とかその他諸々の実用品みたいに、これが便利!これがオススメ!みたいな話がもっとあってもいいはずだ。

というわけで、前置きが大変長くなったが(前置きだったのか)、今回は「月経カップ」の話である。

月経カップは、ナプキンやタンポンに続く第三の生理用品、といわれている。膣内に装着して経血を受け止めるシリコン製のカップで、欧米などでは薬局でも普通に手に入り、使用者もわりと多いらしいが、日本ではまだあまり知名度が高いとはいえない。

私が月経カップの存在を知ったのはたしか5年くらい前。貧困や紛争によって物資が乏しい国の女性たちのために、月経カップを寄付する活動を伝えるニュース記事がきっかけだった。月経カップはひとりにひとつあれば10年使えるので、使い捨ての生理用品を送るよりも、長期的に見ればより効果的な支援になるとのこと。そういうものがあるのか、と実用品オタクとして興味が湧いて調べたら、日本でもネット通販なら購入できるとわかり、物は試しと使い始めてみたらこれが便利ですっかり手放せなくなってしまった。

近頃は日本製の月経カップを作っているメーカーも登場しているようで、検索すれば使い方などは色々と情報が出てくるのでそのあたりは割愛するとして、いち使用者として、どんなところが気に入っているのかを少しだけ語ってみたい。

まず、とにもかくにも月経カップのいちばんのメリットは、「漏れに対する不安が圧倒的に少ない」ことだと思う。

先に誤解がないように言っておくが、まったく漏れないわけではない。正しく装着できていないと漏れるし、カップがいっぱいになってしまったらあふれた分は漏れてくる。それでも、ナプキンやタンポンよりキャッチできる経血の量が圧倒的に多いから長時間もつし、なによりも「身体の外に出る前に受け止めてくれる」という安心感が果てしないのだ。

ナプキンしか使っていなかった時は、多い日や夜は常に気になってビクビクしていたものだが、月経カップとナプキン(保険)の併用で臨めば、下着や服を汚してしまうかもという不安は、自分の場合は限りなくゼロになった。脳のリソースがそちらにごっそり持っていかれないのは大変ありがたいし、夜も体勢を気にせず熟睡できるので寝起きの疲労感が違う。

また、着けてる感が全然ない、というのもいいところ。使ったことがない人は、アレを体内に入れるんだから、気になるんじゃ?と思われるかもしれないが、正しい位置にセットできていれば(※)、1〜2分後には存在を忘れるほどである。(※経験上、違和感が消えないときは、位置が浅すぎて正しいポジションにおさまっていない場合が多い気がする)

私はタンポンがどうにも苦手だったので、使う前は同じような感じかなと思っていたのだけれど、あの圧迫感みたいなのが全然ないのが意外だった。シリコン製でやわらかいのがいいのかもしれない。あと、例のヒモが身体の外にぷらーんとしないのも精神的に大きい。自尊心に効く。

特に月経カップがいいよな〜と感じるのはお風呂に入るとき。外からは何も身につけていないように見えるのに、まったく漏れない&垂れないのはすごく快適。生理中でも旅先で気兼ねなくお風呂に入れるし、家でもバスマットを汚さないように細心の注意を払って行動する必要がなくなる。

私は経験がないが、子どもと一緒にお風呂に入るお母さん方には愛用者が多いと聞く。また、スポーツでよく体を動かす人、ジムのシャワーなどをよく利用する人にも向いていると思う。

長い目で見れば、使い捨てで消費する生理用品を削減できることも大きなメリットだ。私はナプキンとの併用だからゼロにはなっていないけれど、それでも使用量はかなり減っている。特に実感するのは、旅行や出張に生理期間が重なってしまったとき。荷造りに必要なスペースが全然違うのだ。

もちろん、月経カップにもいいことばかりではない。デメリットも当然ある。

長時間(商品によって違うが目安としては10〜12時間くらい?)もつから頻度が低いとはいえ、装着し直すのに手間がかかるのは事実。また、それができる条件がそろった場所はどうしても限られてくる。

自宅なら一度やり方をつかめばさほど困らないだろうが、問題は外出時である。個室内に手洗い場があるところは少ない。よく行く場所(職場など)に、気兼ねなく使える多目的トイレがあればラッキーだが、そうでなければ自分なりに実現可能な対応策をなんとか編み出す必要がある。

長時間使用するものだから衛生面にも細心の注意を払わないといけないし、使い方にもコツと慣れが必要だ。最初の何周期かはうまくいかないものと思っていた方がいいし、中にはどうしても無理だ、合わない、という人もいるだろう。この辺りは、他人がどうこうできる問題ではない。

実用品マニアとして、月経カップはいつか取り上げたいなと思っていたが、実は今回の話を書くまでには相当時間がかかった。生理にまつわる話はOKだという人もいるし、絶対NG!という人もいる。誰にでもみられる場所で話題にしていいものか、という迷いがあった。それでもあえて「今こそ」と題して月経カップの話をしたのは、兎にも角にも「世の中が不安定だから」である。

去年の今頃、トイレットペーパーの買い占めなどが起きた際、生理用品もかなり品薄になって、困ったという話を自分の周囲でも聞いた。また、気候変動などの影響で発生の頻度や規模が増大している災害時にも、生理用品の不足は問題になるだろう。

そんな時でも、普段から月経カップを使っていると「これひとつあればなんとかなるから大丈夫だな」と思えるのである。平常時から月経カップオンリーで過ごす必要はないが、選択肢のひとつとして持っておくと安心感が違うのだ。ただでさえ見通しの立たない不安の中で、この「安心」は決して小さなことではない。

最近では、コロナ禍による生活の困窮で生理用品の購入もままらない「生理の貧困」も問題になっている。生理のときに生理用品がないと、本当に何もできない。仕事にも、学校にも行けないのだ。私が月経カップを知ったのも、貧困地域の女性たちへの支援がきっかけだったが、生理用品を支援するということは、間接的に女性の自立を支援することでもある。ナプキンやタンポンに加えて、繰り返し使用できる月経カップも選択肢に加わったなら、より長く有効な支援になるのではないかとも思う。

だが、月経カップはまだまだ一般的とはいえない。日常会話では話題にしづらいテーマだからこそ、WEBという場所で話題にするべきなんじゃないか、と思ってようやく重い腰を上げてみた次第である。

睡眠や老いと同じように、逃れられないものでありながら、あまり語られない生理の話。生理用品の不足に困らなかったとしても、生理による身体の不調はなくならない。なぜ生まれ持った肉体が女であるというだけで、こんな苦労をしなければいけないのか、と毎月歯ぎしりして耐えている人は、表立って見えないかもしれないが、私やあなたの知り合いの中にも、きっと無数にいる。

その苦しみを全て取り除くことはできないが、少しでも安心して快適に過ごすために、お互いが持っている情報を分け合うことが役に立つこともある。また、声を上げづらいと感じる人も多い中で「少なくとも私はその話題OKですよ」と表明するだけでも意味のあることかと思う。私が提供できる情報はあくまでも自分の経験と知識の範囲内ではあるけれど、月経カップが気になるけど身近に聞ける相手がいないという人は、ぜひTwitterなどでも気軽に声をかけてほしい。